これは、タンガロイの営業担当がお客様とともに歩んだ成功への道である。
小さな工具で大きな改善!設備稼働率を32%向上させたø4ソリッドバーとは?
取材協力株式会社伊藤製作所
タンガロイ営業担当
石黒 一希Kazuki Ishiguro
- 出身
- 山形県
- 社歴
- 入社2014年
- 趣味など
- 山登り
今回はたったø4の小さな工具がもたらした生産性改善のストーリーである。
山形県山形市に拠点を構える株式会社伊藤製作所様は、創業75年の精密部品加工メーカーである。製造部品は、自動車関係部品、半導体製造装置用部品、建設機械関係部品、食品プラント関係部品を製造しており、様々な材質の部品を高品質で量産加工することが得意である。
そんな株式会社伊藤製作所様の最大の強みは、高品質を達成する部品加工技術である。自動車のエンジン部品などで求められる高い品質要求である表面粗さ3Sの内径加工やシール面加工も行えるような高い技術力を誇る。高い技術力の発展と継承のために、若手社員の人材育成にも力を入れており、昨年は20代での機械加工1級技能士が2名誕生している。
展示会をきっかけに培った協力関係
伊藤製作所 鈴木部長と担当営業である石黒の出会いは展示会であった。石黒はその当時、伊藤製作所様の担当では無かったが、たまたま製品説明を行わせて頂く機会があった。その後も展示会でお会いする度にお声を掛けさせて頂いていた。
2017年より石黒が伊藤製作所様の担当になってからは、日々の工具提案はもとより、伊藤製作所様向け単独の講習会の開催や新規設備導入向けのツーリングなどを実施するなどして関係を深めていった。今では鈴木部長とは、加工に関してなんでも相談頂けるような間柄にまでなっている。
新規設備導入による半導体部品製造プロジェクト
伊藤製作所様では2022年4月より新規の半導体製造装置用部品の加工がスタートしていた。このプロジェクトは新規設備導入を伴う大きなプロジェクトであった。高い品質を強みとする伊藤製作所様はこの半導体製造装置用部品においても高品質な部品製造を実施していたが、ある1工程で課題を抱えていた。それはø4ソリッドバーを使用した内径の仕上げ加工であった。
小径内径仕上げ加工における課題
半導体製造装置用部品の被削材はA5056のアルミ合金であった。この部品にはø4程度の内径の仕上げ加工があり、この工程の品質確保に苦心されていた。A5056のようなアルミ合金の被削材硬度は鋼などに比べやわらかいため、良好な仕上げ面の維持は困難である。伊藤製作所様で製造していたこの部品でも、仕上り面不良やびびり面が突発的に発生し品質の維持に苦戦していた。
ライン立上げ当初は別メーカーのソリッドバーを使用していた。不具合の発生要因を詳しく調査したところ、切りくず処理・排出が原因であることが分かった。加工を途中で止めて工具の様子を確認してみると、加工時に発生した切りくずがソリッドバーの周りに絡みつき、これが切りくず排出を阻害していたことが分かった。そこで鈴木部長は、切りくず絡み抑制のための対策を取っていた。切りくず排出性を高めるためにソリッドバーに追加工を行い、何とかこの対策で生産を継続していたのであった。しかし、追加工を行う作業者によって工具の品質・性能にばらつきが生じ、部品の不良率があがるなど、決して生産が安定的に稼働できている状態ではなかったのである。
鈴木部長からこの深刻な悩みを聞いた石黒は、「極小内径加工用ソリッド工具TinyMini-Turn」がこの課題解決に役に立つのではないかと考えた。ちょうどその当時、切りくず排出性を高める「TinyMini-Turn 4つ穴クーラントスリーブ」が追加拡充されたタイミングであった。
切りくず処理・排出を改善する極小径ソリッドバーTinyMini-Turn
「TinyMini-Turn」は、最小加工径ø0.6mmのボーリング加工から、溝入れ、ねじ切り加工など、小型部品のあらゆる内径加工に対応可能な超硬ソリッドバーシリーズである。
「TinyMini-Turn」には、切りくずトラブルを抑制する4つ穴クーラントスリーブを設定している。スリーブの取付け穴の内側に4つのクーラント供給口(スリット)を設けており、この供給口より切削油が刃先近傍へ的確に供給される。4つの供給口を設けた新スリーブは、従来よりも遥かに大量の切削油を的確に加工箇所へ供給可能。これによって、穴からの切りくずの排出性が向上し、工具や被削材に切りくずが巻付くといったトラブルを軽減できる。
切りくずトラブルの解消で設備稼働率を32%向上
「TinyMini-Turn4つ穴クーラントスリーブ」の効果を期待しテストを行ったところ、当初の狙い通り切りくずの絡みつき抑制と排出性の向上が確認された。その結果、部品の仕上がり面品質が飛躍的に向上した。
得られた効果としては、「工具寿命が38%改善」「切削条件アップにより加工時間が12%短縮」といった改善に繋がった。中でも最も大きかった効果としては、切りくず処理の改善で、従来頻発していた設備停止が解消されることにより「設備稼働率が32%向上」という非常に大きな改善効果が得られたことであった。
鈴木部長からは「たったø4の小さな工具でこれだけ大きな効果が出るとは驚きです」といった嬉しいお言葉も頂いている。
今回の改善ポイント
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切りくず排出性を高めるクーラントスリーブが切りくずトラブルを解消
TinyMini-Turn独自の4つ穴クーラントスリーブが切りくず排出性を高め、ホルダへの切りくず絡みを解消。仕上がり面の品質向上に貢献。
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トラブルレスな加工で機械稼働が32%向上
切りくずトラブルの解消で加工の安定性と仕上がり品質が向上。工具交換頻度低減や不良品発生による設備停止が減少し機械稼働率が大きく向上。
品質を高める切削工具への期待
伊藤製作所様ではこれからも半導体業界の受注は高い水準で推移していくと想定され、それら部品ではステンレス製品も多く、また内径溝や内径端面溝加工が多くなっていくと予想されている。「TinyMini-Turnは小径ながら多くの種類があり、いろんな場面で使用する機会が増えてくると思います。」といったお言葉を頂いている。
鈴木部長が抱く次世代の切削工具への要望としては、「サーメットと超硬の間の性能を持つ母材の工具」だそうだ。快削鋼や低炭素鋼などの比較的やわらかい被削材は、加工面のむしれやくもりが発生しやすい。こういった材料を加工する際は鉄との親和性の低いサーメットが伊藤製作所様では第一選択になるようだ。しかし、サーメットは超硬に比べ欠けやすい特性もあることから、サーメットのような親和性を持ちつつ超硬のように使いやすい材料の開発、特に最も課題であるねじ切り工具においてこのような工具が発売される事を要望されている。品質を大事にする伊藤製作所様の姿勢がここにも表れており、工具メーカーとしても現場の品質向上に貢献できる製品を今後も開発していきたい。