タンガロイ成功事例
工具管理・コスト低減システム 「MATRIX」を導入 作業の無駄を減らし 高付加価値な加工に注力
㈱タツミ製作所
本記事は機械技術2023年12月号掲載分をWeb用に再編集したものです。
限りある人材や設備を最大限に活用して効率的なモノづくりを実現する――。加工メーカー各社がこの目標に向かって取り組む中、注目されているのが従来見過ごされていた工具管理の改善である。使いたい工具がすぐに見つからない、工具を過剰に発注してしまうなど工具にまつわる無駄は多い。NC旋盤やマシニングセンタによる金属部品加工を手掛けるタツミ製作所(群馬県みどり市)は、タンガロイの工具管理・コスト低減システム「MATRIX(マトリックス)」を導入し、工具管理の見直しに乗り出している。専用キャビネットに工具を保管して探す時間を短縮。在庫の見える化を実現したことで、適正な発注によるコスト削減も視野に入ってきた。オペレータの無駄な作業を極力減らし、付加価値の高い加工に注力する。
現在はNC旋盤20台、5軸加工機を含むMC16台を保有。被加工材はアルミニウムや鉄、ステンレス、真鍮などを扱い、NC旋盤加工であればø250mmまで、MC加工は500mm角まで対応する。
2代目社長の赤石康生氏は「ワークごとに最適な加工機を選定できるのが強み」と語る。特定のメーカーや機種にこだわらず幅広く導入することで、さまざまな大きさ、形状の部品をこなせる体制を整えてきた。特に15年ほど前から導入を進めている5軸MCは、通常は複数工程を経なければ加工できない部品を1チャッキングで加工できるため、同社の得意とする高品質・短納期での加工に欠かせない存在となっている。
工具を探して30分
そんな同社が課題としていたのが工具の不適切な管理だ。「使おうと思った工具があるべき場所になく、現場を30分以上も探し回ることがあった。在庫数をきちんと管理できていない点も問題だった」(赤石社長)。
同社のオペレータは職人気質のベテランが多く、工具を自分の手元に置きたがる傾向が強い。結果、戻すべき場所に工具が戻されず、使いたいときに探し回る時間の無駄が発生していた。また、オペレータが各自で工具を保管しているため、正確な在庫の数がわからなかった。発注に関しても工具の種類ごとに「残り何個になったら発注をかける」というルールを設けていたにもかかわらず、残数がゼロになっても発注されず、必要なときに慌てるケースが散見された。
状況が変わるきっかけは、赤石社長が訪問先の企業でキャビネット式の工具管理システムを目にしたこと。そのときは、「面白い」と思っただけだったが、後日、出入りしている工具商社の五十嵐工具店(群馬県前橋市)にその話をすると、タンガロイの工具管理・コスト低減システム「MATRIX」を紹介された。早速、タンガロイのいわき工場(福島県いわき市)で製品の運用状況を見学。2023年7月に導入となった。SDGs(持続可能な開発目標)の取組みの一環として同社が目指す「資源の無駄遣いを減らそう」にも、役立つだろうとの期待を込めての導入だった。
ソフトとハードで構成
MATRIXは管理システム(ソフト)と工具を保管するキャビネット(ハード)で構成されている。型番、メーカー名、価格、納期など工具情報をあらかじめ管理システムに登録し、システムを介して入出庫作業を行うことで、誰がいつ、どの工具を使ったのかを見える化できる。キャビネットの引出しにはオートロックがかかっており、選択した工具の入っている引出しおよびトレイの蓋しか開かないのも特徴。工具の置き場所を覚える必要がなく、取り出す際の間違いもなくせる。
タツミ製作所では300種類以上のチップやソリッド工具を保有しており、まずは頻繁に使うアイテムから登録を始めている。導入から3カ月余りで具体的な成果はまだ出ていないが、「これからが楽しみ」(赤石社長)なのは確かなようだ。
まず期待できるのが工具を探す時間の削減。キャビネット上のタッチパネルで工具を検索し、指定するだけなので数秒で足りる。工具管理の手間も減る。従来は、終業の15分前に現場の責任者がその日に使った工具を手書きで記録していた。5日間で75分、1年間では60時間以上の作業時間になる。MATRIXを使えばこの作業はすべて自動化される。
在庫の増減を見える化できる効果も大きい。使用頻度の低い工具を見極めて基準となる在庫数を減らしたり、使わない工具をリサイクルに出したりすることで在庫全体の圧縮が可能だ。
検査器具への展開も視野
赤石社長は、工具情報の登録が済んだ後、マイクロメータや測定子など検査器具の管理にもMATRIXを活用したいと考えている。そのためもあり、キャビネットは大容量タイプの「MAXIプレミアム」を選んだ。測定器具は一定の周期での校正が必須のため、校正周期を厳格に管理する意味でもMATRIXは有効なツールとなり得る。
課題もある。1つはMATRIXでの再研削工具の扱いだ。ドリルやエンドミルなど再研削に出すアイテムについて、何を、いつ、何本出したのかを把握したいという要望がある。正確に把握できれば、無駄な新規発注を減らせるためだ。半面、再研削した工具がすべて“従来通り”に使えるとは限らず、そこをどう管理するかが悩みどころだ。
実際に使うオペレータの理解を得るのも簡単ではなかった。「今もまだ、現場の理解を得ようと取り組んでいる。そうした中で、タンガロイのMATRIX担当者が『何かあればいつでも連絡を』と運用面を支えてくれているのはとても助かっている」(赤石社長)。
MATRIXの導入で無駄な作業の削減に成功しつつある同社。オペレータの負担が軽減され、本来担うべき付加価値の高い業務に集中できるようになることが企業の競争力につながる。「他社がやりたがらない仕事を取り込みたい。そのために、最新設備や工具への投資を積極的に行い、個々のオペレータの技術力もアップさせる」と赤石社長。デジタル技術の活用で、昔ながらのモノづくりを変えようとする同社の挑戦は始まったばかりだ。