タンガロイ成功事例

中心刃付き多機能工具「DoMultiRec」を活用し金型荒加工の複数工程を1本で完結

明星金属工業(株)

本記事は機械技術2024年7月号掲載分をWeb用に再編集したものです。

明星金属工業(大阪府大東市)はルーフやボンネット、ドアといった自動車外板部品を成形するためのプレス金型を国内外の自動車メーカーおよび大手自動車部品メーカーに供給している。顧客の求めるデザインや品質を確保するため、成形トライ&修正を繰り返しながら金型を仕上げていく“匠の技”が強み。一方、金型の機械加工では効率を追求。タンガロイの中心刃付き多機能工具「DoMultiRec(ドゥー・マルチ・レック)」を活用し、1本の工具で複数種類の加工をこなすことで生産性向上を図っている。

明星金属工業の創業は1950年。アルミニウム製の家庭用金物や建築用金具の製造・販売からスタートし、その後、家電向けのプレス金型製作、自動車向けのプレス金型製作と軸足を移してきた。同社は明星エンジニアリング(大阪府大東市)および明星シンセティック(同)との3社で明星グループを形成しており、明星金属工業に営業・総務・金型設計部門を、明星エンジニアリングに金型製作部門を、明星シンセティックに管理部門を置くという分業制をとっている。

技術部長
西岡 和豊
製造部新作課機械係長
奥本 公則

“やりきる”金型づくり

金型づくりの特徴は、「大型のプレス金型を最後まで“やりきる”ことができる点」(西岡和豊技術部長)。成形解析および金型設計、機械加工、組付けという一連の工程はもちろん重要だが、プレス金型づくりはそれでは終わらない。組付け後の金型を使い、トライ用のプレス機で実際に外板部品を成形してみて、顧客の求めるデザインや品質が達成できているかを確かめ、必要に応じて修正を施す。ここが最も時間のかかる工程であり、技術者の腕の見せ所でもある。
同社の手掛けるプレス金型は、ルーフやボンネット、ドアなど車体の上部に位置する、最も目に付きやすい部品を成形するためのものが主力。当然、外観への要求は厳しい。「車体上部の外板部品は見た目が勝負。精度良く加工・組付けした金型をどう仕上げるかがカギを握ります。それが可能な人材が当社には在籍している。ここが当社の一番の強みと言えます」(西岡部長)。

工具1本をマルチ活用

仕上げのためのトライ用メカプレスを3台(600t、1,200t、1,800t)保有している点も特徴だ。取扱いが最も多いのは1,000tクラスのプレス金型。それに合わせて加工設備も大型の金型を加工できるものを揃えており、門形の5面加工機10台が稼働している。
仕上げ工程での粘り強い仕事の一方、金型加工では効率を追求している。CAMでのNCプログラム作成と実際の機械加工で担当を分け、オペレータが段取り作業に集中できる体制を構築しているほか、夜間・休日の無人加工にも積極的に取り組んでいる。さらに、工具交換の頻度を減らして加工時間を短縮するため、1本でさまざまな加工ができる工具を選定している。そうした中、昨秋から導入して一定の成果を上げているのがタンガロイの中心刃付き多機能工具DoMultiRec(ドゥー・マルチ・レック)だ。
従来同社では、他社製のインサート式多機能工具を使い、金型の外周部を構成する鋳鉄ベースの荒加工を行っていた。繰り広げ加工やヘリカル加工、溝加工、底面加工、穴あけなどを1本の工具で行うことで、効率の良い加工を実現できていた。ところが、同工具のモデルチェンジに伴い、穴あけ前の底面加工やキー溝加工の際に、底面が平らにならなくなる現象が発生。明星エンジニアリングの製造部新作課機械係に所属する奥本公則係長は、「インサート形状の変更で底面が中高に加工されるようになったことで、その後の穴あけでドリル先端が狙った位置にうまく当たらず、加工に支障をきたすことがありました」と問題点を指摘する。底面を平らに加工でき、かつこれまでと同様に多彩な加工ができる工具を探していたとき、機械工具商社に紹介されたのがDoMultiRecだった。
DoMultiRecは穴あけから肩削り、彫り込み加工まで幅広く対応できるインサート式の多機能カッタ。中心刃があるためドリルのようにも使え、さらにインサートの配置が最適化されているため、穴あけ時の底面をほぼ平らにできる。DoMultiRecでテスト加工を行ったところ、「課題だった底面の問題がクリアできた」(奥本係長)。ø16mmとø20mmを導入済みで、従来工具からの切替えを進めている。
また、DoMultiRecはシャンクタイプ以外にヘッド交換タイプをラインナップしている。同社ではシャンクタイプを採用しているが、「ヘッド交換タイプも検討中」(西岡部長)。将来的には工具交換の手間がよりかからないヘッド交換式を採用し、加工時間のさらなる短縮を目指す方針だ。

金型加工には門形の5面加工機が活躍
DoMultiRecを使い鋳鉄ベース各部の荒加工を1本で完結させる

製品紹介動画

工具寿命の延びに期待

近年、高送り加工が主流になり、テーブル送りが従来の重切削に比べて速くなった結果、加工中にインサートが外れるとインサートを締結している本体まで破損するケースが頻発している。「複数あるインサートのうちの1つが外れただけで、本体が破損し、加工できなくなるのはコスト面でも痛い。外れても本体を傷つけないインサートの形状や材質、コーティングの開発に期待したい」(西岡部長)。今後はDoMultiRecの工具寿命を見極めながら、荒加工で主に使っているø32mmへの適用拡大を検討する。奥本係長も「DoMultiRecのインサートの数や配置を見る限り、従来工具より長寿命が期待できる」と前向きに考えている。
金型の大型化や、被加工材の鉄からアルミニウムへの転換などプレス金型へのニーズは変化している。金型づくりのさらなる効率化や環境負荷低減にも取り組みながら、顧客ニーズを満たす金型を追求していく。