タンガロイ成功事例

多数のクロス穴をもつ舶用エンジン
部品に刃先交換式ガンドリルと
ヘッド交換式ドリルを適用し
高品位面と安定加工を実現

株式会社宮原製作所

本記事は機械技術2024年5月号掲載分をWeb用に再編集したものです。

EV(電気自動車)化の流れが加速する自動車業界と同様、脱炭素化の機運が高まる船舶業界。舶用ディーゼルエンジン部品の機械加工・ユニット組立てを手掛ける宮原製作所(岡山県玉野市)も、温室効果ガス排出の削減につながる新たなエンジンユニットの取込みに力を入れている。ユニットに組み込まれる、多数のクロス穴をもつ難易度の高い部品を加工するために、工具メーカーのタンガロイと量産化の初期段階から連携。加工方法や工具選定への助言を受け、刃先交換式ガンドリル「DeepTri-Drill(ディープ・トライ・ドリル)」とヘッド交換式ドリル「DrillMeister(ドリル・マイスター)を活用することで、高い面品位と安定加工を実現する加工方法を確立した。

宮原製作所は、タンカーやばら積み船など大型外洋船に搭載される舶用ディーゼルエンジン部品を主力とする。舶用エンジンは、型式にもよるが、3~4階建ての建物に匹敵する大きさがあり、同社が手掛ける排気弁やシリンダーカバー、ピストンロッドなどはユニット単体でも大型なものが多い。玉野市内の2工場と中国上海のグループ企業で製造を行い、年間でエンジン150~200基分の部品を供給している。

代表取締役社長
宮原 浩光
製造部 次長
山本 翔大
製造部 機械課 係長
嶋田 昌征

舶用エンジンに集中

同社は「舶用エンジン分野のトップサプライヤーになる」(宮原浩光社長)という目標を掲げる。数年前まで印刷機械や工作機械の部品加工も手掛けていたが、舶用エンジンに一本化。既存の主要取引先に加え、国内外の舶用エンジンメーカーの需要掘り起こしを目指している。
そんな同社の強みは「組立てまで一貫で対応できる体制」(山本翔大製造部次長)だ。社内で加工した部品と調達部品とを合わせて組み立て、ユニットに仕上げるためのノウハウをもつ。加工設備も充実している。国内2工場合わせて約40台のNC機を保有し、手のひらサイズから大型部品まで対応する。CNC旋盤や複合加工機、立形・横形のマシニングセンタ(MC)、門形MC、5軸MCなど種類も豊富。さらに、舶用エンジン部品メーカーとしては珍しく高周波焼入れ機やHVOF溶射機を保有しており、焼入れやクロム粉末の溶射による部品の高硬度化を社内で実施している。

工具メーカーと連携

この1~2年、力を入れているのが今後、市場ニーズが高まる「二元燃料エンジン部品」の製造である。「二元燃料」とは2種類の燃料を使用することを意味し、既存燃料である重油と、天然ガスなどの代替燃料を併用することで、温室効果ガスを大幅に削減する。同社は2023年に主要顧客からの依頼で同部品の量産化に着手。ところが、最初から壁にぶつかった。
材質はS45Cで、400×300×200mmのブロック形状。その全面にø4~80mmのさまざまな径の穴があいている。最も太い穴には複数の方向から斜め穴が通り、そのほかの穴も各所でクロスしている。加工を担当した嶋田昌征機械課係長は、「クロス穴が非常に多く、軸心からずれた位置に高精度を必要とする穴もある。これまで見たことのない難易度の高さ」と話す。円滑な量産化には社外のノウハウが必要。そう判断した同社は、深穴加工で定評のあるガンドリルを製造するタンガロイに協力を依頼した。

二元燃料焚き舶用ディーゼルエンジン部品

穴加工に超硬工具

タンガロイの助言を受けて最も大きく変わったのは、穴加工に使う工具だ。宮原製作所では通常、20D以上の深穴加工にはハイスドリルを採用している。じん性が高く折れにくいハイスドリルは深穴を安定して加工するのに向くが、加工スピードが遅く、加工面を滑らかに仕上げにくい。同部品の面粗さは最も粗い部分がRa=3.2μmで、Ra=0.8μmやRa=0.6μmが必要な個所もある。そこで、加工スピードと面粗さを両立できる超硬工具を選択。新たに導入した5軸MCでの試作を繰り返し、安定して加工できる方法を見極めていった。
採用したのは刃先交換式ガンドリル「DeepTri-Drill(ディープ・トライ・ドリル)」とヘッド交換式ドリル「DrillMeister(ドリル・マイスター)」。DeepTri-Drilは高い切りくず排出性と加工能率、優れた穴加工精度が特徴で、DrillMeisterは超硬ソリッドドリル同等の切削性能とワンタッチでヘッドを交換できる利便性を兼ね備える。深穴加工にDeepTri-Drillを、そのほかの穴加工にDrillMeisterを適用し、面粗さや安定加工などの工具に付随する問題点をクリアした。今後は段取り回数を減らすための専用治具をつくり、5軸MCで5面を一気に加工できるようにする。
他部品への横展開も進める。「ハイスドリルは再研削しながら使うため、再研削後の工具を使う際の工具長の入力ミスが課題だった。交換式なら人的ミスをなくせる」(嶋田係長)。また、チップやヘッドの交換時期を最適化するために、タンガロイの協力を得て、使用済みのチップやヘッドの損傷状態を定量的に把握しようと取り組んでいる。

専用治具の活用で5軸MCの力を引き出す

ガイドパッドを2連結設置したクロス穴加工用DeepTri-Drill

DeepTri-Drillによるクロス穴加工動画

クロス穴加工部の加工プログラム例

映像提供:DMG MORI Precision Boring 株式会社

自由なチャレンジを推奨

今回の成功は、量産化の初期段階からタンガロイを巻き込んだことが奏功した。「営業担当者を通じて、ツーリングや加工技術の専門チームの助言を得られた。ガイドパッドを増やしたDeepTri-Drillのような特殊品にも対応してもらい、満足している」(山本次長)。
同社は24年2月に創業100周年を迎えたのを機に、「KEEP THE TOMORROW SHIP(明日へ進む力をこれからも)」のスローガンを掲げた。宮原社長は「舶用エンジンに集中しつつ、新しいことに挑戦していく。社員の皆にも、やりたいことに自由にチャレンジしてほしい」と語る。
船舶業界の脱炭素化に寄与する加工技術を確立した同社。今回獲得した技術を展開するための設備投資を視野に入れつつ、新規顧客の獲得に挑む。